革命的温燗計画!骨酒に関する初期実験記録


岩魚がなければ鮎を使えばいいじゃない




乳頭温泉区保養施設における労働者回復作戦行動が完了したのち、当構成員(技術員コード№QTD-23)=私は、次なる行動、すなわち骨酒製造実験に着手した。

労働者回復作戦行動の終結、つまりまた明日からは資本主義的労働制の圧迫に抗する日々が始まるという現実が、実験場の空気を鉛のように重く圧し潰していた。

その不可避な重みは、心の隅々にじわりと染み込み、私の思考をもどかしく縛り付ける。

この空間、この一瞬の平和が、まるで砂時計がひっくり返されたかのように、急速に流れ去ろうとしている。

その切迫感が、私の肩を無形の重荷で圧迫し、未来への一歩を踏み出すたびに、心の奥底から湧き上がる小さな抵抗と戦わねばならないのだ。

「ああ、またこの腐敗した資本主義体系へ戻らねばならぬのか…………」

と私はため息をついた。友好構成員 無法松(コード名:Нехороший Мац)が空虚な眼差しを私に向けている。

「いったいどうした?貴様の瞳には、深淵が映っている。まるで党大会で“自発的賛成”を強要された幹部のようだな。

私は答える。「生きる喜び?ふん、そんなものは、この安息の刻(とき)と共に燃え尽きたさ...」と。




そのとき、深淵から声が響いた。Amazon配送部隊の闇より、我に届いたのは、かの伝説的アイテムである。


特級神器


「これは...異界より召喚された、加熱醸造霊的実験用特級神器ではないか!」






「これを手にしたら、一体どんな異次元の酒宴が繰り広げられるのだろうか...」

と考えるうち、無法松が「しかし、このハイパーメトロポリス・Tokyo CITYでは、岩魚などという霊魚は手に入らぬが、どうする?」と問いかける。

私は微塵も表情を変えずに答える。「松よ。岩魚がなければ、我らは鮎を使えばよい。」これぞ代用主義、これぞ計画経済の柔軟性である。


まな板の上の鮎


私たちは、灯りがちらつく都会の片隅で、鮎を探し出した。

その鮎は、まるで運命に導かれたかのように私たちの前に現れた、霊的実験のための選ばれし代用供物であった。

静かに、しかし確かな手つきで鮎を包み込み、我々はそれを実験場へと運んだ。

その実験場は、古の秘儀を行う場所、時間と空間が交錯する祭壇(通称:家庭用オーブン)である。

鮎をそこに静かに置くことで、この世ならざる力との絆を確かなものとし、霊的実験の始まりを告げるのであった。


おなか98


我々は、選ばれし者のみが扱うことを許された聖剣(包丁)を手に、実験の第一段階を執行した。

その刃は光を帯び、鮎の鱗を通り、肉を分ける際にも、まるで二つの世界の間を行き来するかのような神秘的な感覚をもたらす。

内臓を除去し、俗世との接点を断つ。エラを取り、精神的通信機能を停止する。鱗を捨て、外的社会性を剥離する。これにより、鮎は単なる魚体から、霊的代行体へと昇格したのである。


霊的代行体


実験場の祭壇(通称:家庭用オーブン)を異界の門と見立てて、180℃で予熱する。


「さあ、旅立つのだ、同志よ、異世界への旅立ちを恐れるな!!


オーブンの中


20分後、鮎は異形の姿に変わり果てていた。

私がその姿を記録し損ねたことは、むしろ神の配慮かもしれぬ。

「やはり、この実験はこの世のものではない...」と思いつつ、今度は100度でじっくりと鮎を焼き上げることに。


焼成中


鮎は完全に別次元の存在へと変貌を遂げた。


焼成完了


「見よ、この完成形。これこそが、真の骨酒の素材だ!」と私は声高く叫んだ。


乾燥中


祭壇に鮎を捧げ、祈りの儀式を行う。我々の祈りは鮎を霊界の門扉へと誘う。

その姿は、ただの鮎ではなく、異次元への通行証と化す。

風が鮎の骨と魂を撫で、その肉体から全ての水分を奪い去り、完全なる乾燥へと導く。

この聖なる過程を経て、鮎はこの世の束縛を解き放たれ、骨酒の霊的実験にふさわしい、究極の存在へと変貌を遂げるのである。


乾燥完了


そして、遂に骨酒の実験が成功した。

魔界の銘酒を熱の抱擁に委ね、その液体が微かに震えるのを待つ。やがて温もりを帯びたその酒を、古の秘密を宿す徳利へと静かに滑り込ませると、空気が一変する。

その瞬間、徳利から言語化できぬ記憶が香りとなって立ち昇ってきた。それはかつて配給所で並んだ祖父の列、それはかつてラジオで流れたマンドリン協奏曲、それはかつて“誠実”が公的美徳だった頃のにおい。

かつてこの世を彩ったいくつもの魂が、時空を超えて集い、互いに語り合う古の詩篇のよう。

それぞれの魂が紡ぐ物語が、微かな蒸気と共に室内を満たし、霊的実験の空間をさらに深遠なものへと変えてゆく。

この香りはただの酒の香りではなく、 遠い記憶、失われた時代、そして未知なる世界への誘いなのである。

私は無法松に向かって叫んだ。

「見たか、松よ!これこそが真実の骨酒だ。これは癒しなどという資本の快楽ではない、設計された思想再統合だ。精神の補完だ!」


骨酒完成


こうして、乳頭温泉の幻覚に包まれた最終日は、不可解な実験と共に、一生忘れることのできない奇妙な夜となったのだった。